灘の水車搾り

   酒の名産地として有名な灘は,かつては,油の「水車搾り」で知られていた。灘とは,摂津の国・武庫,兎原,八部の三郡の総称である。この地方で搾る油は全て,水車で菜種を粉にして搾るので,他産地の油とは区別され,「水車搾り」あるいは「灘油」と呼ばれた。
 普通の搾油では,菜種を炒り,人力で碓を踏んで粉にするが,灘では,水車に「同搗(どうづき)」という押しつぶす道具を仕掛けて粉にするので,大いに手間が省ける。搾った油の品質は変わらないが,油の抜け方が悪いので,油粕の値段は,人力搾りよりも少し安い。しかし人力では,5人体制で菜種を一日に2石も搾れば良い方だが,水車を使えば3石6斗も搾ることができる。採算性の良さで水車に及ぶものはなかっトた。
 水車は,普通は自然に地を流れる水に掛けるが,水の乏しい所では,高い所から樋で水を引いて水車に落とす「腹がけ」を用いる。これは,平坦地ではできない。
 灘では,菜種油のみならず,水車搾りにより,おびただしい量の綿実油を生産した。この大きな生産能力が,後に,古くからの菜種油の産地である大坂周辺の地域との間で,トラブルを生むことになる。